産業用ロボットは、人の代わりに工場などの現場で自動で作業を行ってくれるロボットです。産業用ロボットを導入することで、人材不足の解消や安全性の確保、生産性の向上など多くのメリットが見込めます。この記事では、産業用ロボットについて種類の紹介やメリット・デメリットなどを解説いたします。
産業用ロボットとは?
産業用ロボットについての定義や、用途・活用シーンについて解説します。
定義
産業用ロボットは基本的に、作業するために稼働するマニピュレータ(人間の腕のような部分でアームとも呼ばれる)と、複数の軸(人間の関節のような部分)、動作を制御する装置で形成されています。
産業用ロボットの定義は、日本工業規格(JIS)によって以下のように定義されています。
マニピュレータがある
3軸以上ある
1箇所に固定されている、または運搬機能がある
産業の自動化を目的としている
再プログラムが可能
用途・活用シーン
産業用ロボットは多様な業界で活用されています。
自動車製造
食品加工
建設 ・製造業
医療
家庭用品
製造や加工はもちろんのこと、製品の包装や検査まで幅広いシーンで活用されており、各工程に適した産業用ロボットを導入すれば、オペレーション業務以外のライン作業を全て自動化することも可能となります。
産業用ロボットとサービスロボットの違い
ロボットと呼ばれるものは、「センサーが反応する」「動作させるための駆動」「知能・制御」の3つの要素を兼ね備えたものです。産業用ロボットとは異なり、サービスロボットに分類されるものもあります。
サービスロボットとは、重いものを持つ、受付で案内をするなど人が行なう作業を支援・補助するロボットです。手術現場やレスキューなどにも広く活用されています。
産業用ロボットは、人の代わりに作業を行ない、サービスロボットは、人の作業を支援するといった用途に違いがあります。
産業用ロボットの種類
マニピュレータ(アーム)や、軸の形状・動きの違いによって、いくつか種類に分けられます。
垂直多関節型ロボット
クレーンのような全体像をしており、つなぎ合わさった軸は垂直に稼働します。産業用ロボットの中でもっとも一般的に用いられ、人間の腕のように動かせ、汎用性が高いロボットです。
水平多関節型ロボット(スカラロボット)
軸の部分が水平に設置されており、それぞれが回転することで位置を制御します。先端に垂直に動く軸があり上下の位置決めができるため、真上からの作業に用いられます。
パラレルリンクロボット
3〜4本のアームが備わり、上部から吊してアーム先端にある吸盤装置で製品を持ち上げます。アーム部分は剛性で軽量な作りが特徴で、スピーディな動きが可能です。運搬やピッキング作業に適しています。
直交ロ型ボット
2〜3のスライド軸を持ち、直角に交わるように構成されています。シンプルな構造のため、複雑な作業には不向きですが、高精度な作業が得意で価格も安価です。
円筒座標型ロボット
台座部分に回転軸があり、水平と垂直に動く直線軸があるロボットです。
極座標型ロボット
アームの支柱に回転軸があり、アームの先端部分に回転と上下左右の軸を備えたロボットです。産業用ロボット誕生の初期に活躍しました。
協働型ロボット
人と協働できるロボットです。通常、産業ロボットの周囲は安全柵などで囲うなどの対策が必要ですが、協働型ロボットは、人や物に触れれば自動で停止するため、安心して同じ空間で人が作業できます。安全性や柔軟性の高いロボットです。
産業用ロボットを導入するメリット
産業用ロボットを導入するメリットについて解説しておきます。
自動化に繋がる
作業を自動化できれば、危険な作業や過酷な作業を人が直接行なう必要がなくなり、安心安全な生産が可能になります。
省人化に繋がる
日本の労働人口は減少しており、製造現場でも人手不足は課題となっています。これまで複数人で行なっていた作業を、産業用ロボットを導入することで、人手不足を解消し労働力を補います。
生産性が向上する
産業用ロボットは、昼夜を問わず土日の休みも必要ありません。反対に人であれば、深夜勤務や休日出勤などで稼働させる場合、人件費はかさんでしまいます。長時間の稼働を続けられるため、生産性が向上します。
品質が安定する
人が長時間の作業を続けていると、集中力は低下していきます。そのため作業のミスや事故に繋がるリスクもあります。しかしロボットはプログラムに指示された通りに作業を進め、安定して継続できます。そのため一定の品質を保ちながら生産が可能です。
コスト削減に繋がる
産業用ロボットは一度プログラミングすれば、長時間安定した品質での生産が可能です。機械トラブルではない限り、人為的ミスや事故の発生リスクがありません。またプログラムの変更により作業内容を転換できるため、多方面においてコストカットに繋がります。
生産稼働時間の延長が可能
産業用ロボットは指示されれば稼働し続けます。残業で生産をまかなう場合、人間の場合であれば労働の蓄積によって生産性は衰えていきます。ロボットであれば人間のように疲れることはありません。
生産管理が簡略できる
1日に何人が労働すれば、どれくらいの生産が可能かどうか、納期に間に合うかといった管理が簡略できます。欠勤や退職などで生産ラインに穴があくなどの流動的な問題も発生しません。そのため生産計画も的確に行なえ、管理面での業務負担を削減できます。
産業用ロボットを導入するデメリット
産業用ロボットはメリットも多く見込めますが、注意しておかなければデメリットになる部分もあります。
高額な導入コストがかかる
産業用ロボットは多くのメリットが享受できるものの、導入費用には高額な費用がかかります。稼働する装置や制御装置、その他の周辺機器やスペースの確保、機械操作ができる専門的な知識など、産業用ロボットの価格とは別に関連する費用が多数あります。想定外の支出が発生しないよう予測しておき、どれだけの生産性が見込め人件費などコストカットが可能か、十分に試算する必要があります。
有資格者が必要になる
産業用ロボットを正確に稼働させるためには、動作のプログラミングが必要です。また機械トラブルが発生した場合や、定期的なメンテナンスも専門的な知識が無ければ対応できません。そのため社内にてプログラミング知識のある技術者が必要となるため、採用や育成に時間やコストがかかることを前提にしておきましょう。
社内で確保することが難しい場合、外部委託する方法もあります。知識のないまま機械の操作を行なうと事故や故障のリスクもあるため、専門的な技術者が対応する必要があります。
また、産業用ロボットの操作に必要とされる資格は「産業用ロボットの教示等の業務に係る特別教育」と言い、労働安全衛生法が定める「特別教育」を受けている必要があり、安全柵等の設置も必要となります。
不具合が発生する可能性がある
なんらかの原因で機械に不具合が発生する可能性があります。不具合が発生した場合には、原因の追及や改善・復旧作業、再発防止策などが必要です。生産がストップする都度、復旧作業する工程は人の手が必要となります。トラブルが多発することや、改善が長期化した場合のリスクヘッジ対策が欠かせません。
産業用ロボット導入後の注意点
産業用ロボットを導入する際に、メリットによってどれだけコストカットができるか、反対に機械トラブルなどでどれくらいのリスクに備えなければならないか、比較検討や対策を十分に行う必要があります。しかしながらいくら対策をしていても、想定外のトラブル発生で、生産ラインがストップする事態も発生しかねません。
人であれば人材育成が必要なように、機械に対しても、発生したトラブルに対して、改善を行い再発防止に努めることを徹底していくことが求められます。
まとめ
産業用ロボットは、最先端技術や未来のテクノロジーといった手の届かない存在のような位置づけだったかもしれません。しかし昨今では、技術の進化に伴い、日常生活にもお掃除ロボットが活用されるなど、身近なものになっています。人材不足の解消、安全性の確保、生産性の向上は、どの現場でも課題となっており、産業用ロボットがその課題の解決策になるでしょう。